「魂の解放!私はダンシングクイーン!」

「魂の解放!私はダンシングクイーン!」

2020年9月28日
【each my story】

~ 想像を超えた共同創造の物語 ~

ある日、カフェでくつろいでいた元劇団四季のあやかさんに、ビジョンが降りてきた。
それは、ミュージカル「マンマミーア」の「ダンシングクイーン」に乗せてみんなで踊っているイメージだった。それを味わっていたら、涙が自然と込み上げてきた。
「ああ、これやるやつやん!」
そう思ったあやかさんは、8月末、HTLダンシングクイーン部を立ち上げ、シンデレラプロジェクト2020(以下、シンプロ)にエントリーをし、私たちの出演が決まった。
 
 
■ダンシングクイーンを歌って、えみちゃんにプレゼントしたい
 
出演するのは、30代から60代の総勢30名。
その中の一人、えみさんは、HTLで初めてできた大切な友人に「ダンシングクイーンに出ることになった」と伝えるのを躊躇していた。
 
友人のゆっちゃんは、ちょうどその頃、初期の癌を告知されたばかりだった。2年半前に癌の治療をしており、それが再発したのだ。
ゆっちゃんは歌が大好きで、シンプロに出演したかったのだが、治療のために断念せざるを得なかった。
えみさんは、ゆっちゃんが病気と闘うこと、シンプロに一緒に行けないこと、そして、自分が何もできないことが辛かった。ゆっちゃんの気持ちを思うと、自分だけが楽しんでいいのかと考えてしまったが、思い切ってゆっちゃんにダンシングクイーンのことを伝えた。
 
実は、ゆっちゃんにとってダンシングクイーンは特別な曲だった。
小学校の高学年の時にこの曲に出会い、レコードが擦り切れるほど何度も繰り返し聴いた。
当時、ゆっちゃんは歌詞の意味が知りたくて、徹底的に英和辞典をひき、対訳を付けていった。発音も調べて、完璧に歌えるように練習をした。それほど愛してやまない曲だった。
 
高校時代にバンドを組んでいたほど歌が好きだったゆっちゃんは、Happyちゃんが17(イチナナ)でライブをしたことがきっかけで、インスタで歌を披露するようになった。ただ、やっているうちに、「やらなきゃいけない」というマインドになったため、いったん中断することにした。
そんな時に、えみさんからダンシングクイーンのことを聞き、「ダンシングクイーンを歌いたい!」という衝動がゆっちゃんに芽生えた。
すぐに歌ってみると、インスタライブで歌うよりも断然楽しかった。
えみさんを応援したいと思っていたゆっちゃんは、「このダンシングクイーンを歌って、録音して、えみちゃんの写真付きの動画を作って、プレゼントしよう」と思いつき、ワクワクした。
嬉しくて嬉しくて、はじめは喜びで号泣しながら歌の練習をした。泣かずに歌えるまで何度も繰り返し歌った。
誰にも見られてない状態で、1円にもならないことだったが、「どれだけ楽しく歌えるか、パワフルに歌えるか、思いが伝わるか」だけに集中して歌うのは至福のひとときだった。
 
ゆっちゃんはダンシングクイーンを歌いながら、今まで隠していたHappyちゃんへの嫉妬にも気づいてしまった。Happyちゃんは歌手ではなかったが、歌うことが好きで、楽曲を何曲も提供してもらって、レコーディングをしていた。ファンの前でも生歌を披露していた。「Happyちゃんはお金があるからね」と片付けていたが、本当は腹の底から悔しかった。「絶対に私もやってやる!」と思った。
 
だから、ゆっちゃんは、今回のシンプロの企画の一つ、「富豪カラオケ」にも出たかった。富豪カラオケは、幕張メッセの舞台で歌を1曲歌う権利を25万円で買うというものだった。
「絶対に一人で歌いたいし、出たらマイクを離さないと思う」とゆっちゃんは笑った。
富豪カラオケは申込者が募集人数を超えたため、オークションになったが、ゆっちゃんは出たくても出られない悔しさが強く、富豪カラオケのオークションのライブ配信を観ることができなかった。
 
「ステージに立つとしたら、今はダンシングクイーンを歌いたい。今回のことで、私にとって特別で大切な曲になったから」
ゆっちゃんは即答した。
 
 
■癌は感謝でしかない
 
えみさんとゆっちゃんは14歳の年齢差があるのだが、ゆっちゃんは、その差を感じないほど若くてパワフルな女性だ。ゆっちゃんは人生経験が豊かで、様々なことを知っていて、えみさんは、ゆっちゃんの物事の捉え方や自分との向き合い方に感銘を受けた。自分の枠を外してくれるようなゆっちゃんの発想を面白いと思った。
 
ゆっちゃんには、手術と入院経験が何度かあった。最初は帝王切開、その次に子宮全摘出。そして、2年半前には癌で腎臓を摘出。今回は、癌が再発して治療のために入院する。
 
「これだけ体験をすると、病気は私に休暇をくれているとしか思えないんです。『お金は一生懸命、長時間働かないと入ってこない』という固定概念が自分の中に強く残っているので、驚異的に働くんです。それでいて、自分ビジネスもやろうとしていて、休日にそれをやり続けていたから、休む時間がなくて。だから、休憩をいただくために強制終了が入るんです」
 
子宮全摘出の時は、子宮は癌の一歩手前の段階だったが、命はギリギリの状態だった。
出血がひどく、医師には死ぬかもしれないと言われた。輸血をしながら、朦朧とした意識状態で生死の境をさまよい、死ぬ恐怖を嫌というほど味わった。
それに比べて癌はなんて楽なんだと思った。手術も怖くなかった。痛みは覚悟していたが、手術当日と翌日を我慢すれば、あとは何とかなると思っていた。
 
「癌というのは、自分の中にあるマイナスの感情や『これはダメ』とダメ出ししていたものが自分の臓器の弱いところに集中して、それを手術で取るという最強のデトックス。ある意味、チャチャッと簡単にデトックスできるんです。それに加えて休みもいただける。そして、さすがに私も馬鹿ではないので、自分の体を労わるということも考え始めますよね。まあただ、ちょっと馬鹿だったから、再発しているんですけどね(笑)」
 
ゆっちゃんは、癌は感謝でしかないと思った。だったら、入院生活をいかにして楽しむかがテーマとなった。
他の患者さんとのおしゃべりやテレビ、読書を楽しんだ。
ごはんも美味しかった。三食昼寝付きのぜいたくな生活を満喫した。
手術をした場合、早期離床といい、体の回復のために翌日から歩行を開始することが推奨されている。
とはいえ、術後の痛みがあるため、通常、患者は点滴棒につかまりながらそろりそろりと歩く。ところが、ゆっちゃんはガンガン歩くため、彼女が通ると点滴棒の音がガラガラと豪快に鳴り響き、院内ではちょっとした有名人だった。
ゆっちゃんは、歩けば歩くほど、次の日の痛みがなくなることを知っているため、痛くてもどんどん歩きたくなり、元気になっていった。
 
今回の入院も、きっとゆっちゃんにとって恵みのひとときになるのだろう。
 
 
■大好きなゆっちゃんの歌で、シンプロの舞台で踊りたい
 
ゆっちゃんは、えみさんのために歌を歌い、えみさんの写真をたくさんちりばめた動画にして、エールを送った。
 
その動画を観て心動かされたえみさんには、「大好きなゆっちゃんの歌で、シンプロの舞台で踊りたい!」という望みが湧いた。
それはえみさんの個人的な望みだったため、「私だけのステージでもないのに、おこがましい」「よく思わない人もいるかもしれない」とエゴキンマン(暴走するエゴ)はささやいた。
それでも、えみさんはエゴキンマンの声を振り切って、望みをかき消さずに許可することにした。
 
「ゆっちゃんは、『ひとりシンプロごっこをやる!何をやろうかなぁ』と言っていたけど、もしこんな形で共演できたら、ゆっちゃんもシンプロに参加することになるから嬉しいなぁと思って、望みを飛ばしてみました」
 
まずは部長のあやかさんに、ダメ元で思いを伝えた。
すると、「ゆっちゃんの歌の1番とミュージカルのダンシングクイーンの2番を繋げてもらえたら使えると思う」との回答があった。
えみさん自身は、編集技術を持っていなかった。そこで、自分で何とかしようとせず、「編集できる人が現れたらいいな」と望んで、曲を編集できる人を探した。すると、同じダンシングクイーン部に、編集作業をしてくれる人が現れた。それがなおさんだった。
編集をするため、ゆっちゃんには歌を再録音してもらった。
当初は、曲の1番をゆっちゃんの歌、2番をミュージカルの曲にする予定だったが、なおさんに相談したところ、「出演者側の目線で考えると、いきなりゆっちゃんの歌で始まると聴き慣れていないから驚いてしまう可能性があるのではないか」という話になった。そこで、出演者が踊りやすいように1番をミュージカルの曲にし、2番にゆっちゃんの歌を編集して入れた。
 
一方、ゆっちゃんは、再録音した音源をえみさんに送ったものの、1番は納得がいく出来ではなかった。半音下がっている箇所があり、「こんなの恥ずかしくて出せない」と思った。そうしたら、2番が採用された。
1番を使われると思っていたため、1番は緊張して歌っていた。逆に、2番は使われないと思っていたから、リラックスして素のままの状態で歌えていた。ゆっちゃんは、えみさんに2番を使ってほしいとお願いしたわけではなかったが、結果的に望みが叶い、その事実に驚きながらも、宇宙の采配に感謝をした。
 
えみさんが「ダンシングクイーンに出ることになった」とゆっちゃんに伝えたところからスタートしたこの物語。望みが生まれるたびに不安や怖れが出てきたが、自己対話を繰り返して動いてみた結果、素晴らしい共同創造が生まれた。
「世界はこんなにも優しくて、愛に溢れていて、温かかった」とえみさんは知った。
 
 
■一人ひとりがクイーンとして君臨する
 
部長のあやかさんは舞台の立ち位置を決めるにあたり、あみだくじを提案した。
その結果がこれだ。
 
なんと、ランウェイの先端のど真ん中にえみさんが来た。
「大好きなゆっちゃんの歌で、シンプロの舞台で踊りたい!」というえみさんの望みは、最高の形で叶えられようとしている。ゆっちゃんの思いをのせたソウルフルな歌声が幕張の会場に響き渡る中、スポットライトを浴びて踊るえみさんは何を感じるのだろうか。
 
そして、舞台の立ち位置を書いた紙にはあやかさんの思いが込められていた。全員の名前に「クイーン」が付いていた。一人ひとりが主役であり、クイーンとして君臨するのだ。
 
そして10月7日、私たちはそれぞれのドラマを大切に抱えながら、自分を表現する喜びの中で魂の輝きを解き放つ。

インタビュー・文 ゆっこ@yuki_love_light
編集 大澤利章@juuuuu3