「過去と未来の私に、今、届けたい思い」

「過去と未来の私に、今、届けたい思い」

2020年10月5日
【each my story】

~ 義足で堂々とランウェイを歩きたい ~


「なおちゃんも、せっかく義足なんだから、こんなふうにしたら?」
なおこさんは、HTLの1期生で友人のリコさんに、いきなり海外の義足モデルの写真を見せられた。
なおこさんは、「誰がそんなこと。するわけないじゃん」と一蹴した。


■自分の中の小さな望みに気づく

しかし、その一週間後くらいに「切断ヴィーナスショー」というイベントの記事を目にした。
東京パラリンピックの開会式が行なわれるはずだった8月25日に、パラアスリートを含む義足の女性たち12名による無観客オンラインファッションショーが開催された。
テーマは、「WE ARE GOLD」。今、この地球という表彰台に立っているすべての人が金メダリスト。そんな思いが込められたショーで、モデルたちは義足で堂々とランウェイを歩き、魂の輝きを放っていた。
なおこさんは、「近かったら出たかったかも」と思った自分に気づいて驚いた。

ファッションショーに出てランウェイを歩きたいという自分の小さな望みの声をキャッチしたなおこさんは、Happyちゃんが募集していた「私に時間ちょーだい」企画に応募することにした。

『今まで私は、なるべく義足が目立たないように、ロングスカートばかり履いていましたが、義足が分かるような恰好で出るのもありかなと思いました。今まで義足を隠してきましたが、義足で堂々とランウェイを歩きたいです』

縁があれば選ばれるだろうし、縁がなければ選ばれないだろうと、結果に執着せずにいたら、ある人から電話がかかってきた。
知らない番号だなと思いながら出ると、「あ、もしもし、秋元さん?」と声がした。
Happyちゃんだった。

「一人でランウェイを歩くのは、心臓が強くないと無理だから。HTL毛部の剛田毛子さん(本名:みゆきさん)と一緒に『ミッキー』チームの枠で出て、ランウェイを歩くのはどう?」

なおこさんは、「選ばれたのなら、やってみようかな」と思った。


■服を着たときに、作り手の愛を感じる

出演が決まったことをリコさんに伝えると、リコさんは「私のドレスが役に立つじゃん!」と目を輝かせた。リコさんは過去に美大を目指していたほどアートやファッションが好きで、ドレスをたくさん作っていた。

リコさんは、「これはどう?」「あれはどう?」と次々に衣装を提案し、なおこさんは着せ替え人形のようにいくつものドレスを試着して、二人三脚で衣装選びを進めていった。

剛田毛子さんとLINEでアイデアを出し合っていた際、剛田毛子さんがHTL毛部の部長ということで、美女と野獣のイメージが出てきた。なおこさんが美女で毛子さんが野獣。それを衣装選びの際にリコさんに伝えると、リコさんはすぐに黄色いドレスを持ってきた。

「黄色も似合っているけれど、赤もいいかも」というリコさんの一言で、赤いドレスも試着した。なおこさんにピッタリだった。
「やっぱりこれはなおちゃんのために作ったドレスだね!せっかくだから、ショーの時だけ着るんじゃなくて、最初からその恰好で会場に行きなよ」
とリコさんは言った。
ステージ衣装は決まった。
リコさんは、自分の作ったドレスを幕張の舞台で着てもらえるのがとても嬉しかった。

「私のために作ったドレスではないですけれど、リコさんが、どうしたらこの服がより綺麗に見えるのかを、何度も試着を重ねながら丁寧に作っていったのが、袖を通すと感じられました。彼女のドレスはたくさんあるので、私だけではなくて、みんなにも着てほしいという望みが生まれました。見るのと着るのとでは違いますね」

前夜のライブ配信で、Happyちゃんもファッションデザイナー丸山敬太さんにオーダーしたお花のドレスの試着会があったと話していた。それは、シンデレラプロジェクト2020(以下、シンプロ)のイベントでHappyちゃんが着る衣装だった。
Happyちゃんは、ドレスを着て鏡の前に立った瞬間に涙があふれてきて、それを見た敬太さんも、『こんなに喜んでくれるなんて嬉しい』ともらい泣きをした。
26年間、洋服という一つのものに愛を注ぎ続けてきたエネルギーが伝わってきて、身体に喜びの電流が走ったという。
なおこさんも、Happyちゃんと同じように、着た瞬間、作り手のリコさんの思いを感じた。


■リコさんと一緒に楽しんだ豪華客船での遊び

昨年の7月、ユーチューバーのヒカルさんが、豪華客船の旅を格安でプレゼントするという企画を発表した。
リコさんがこの企画に応募すると聞き、なおこさんも募集の動画を観た。7泊8日の日本周遊クルーズだった。「ああ、いいなぁ」とときめいたなおこさんは、応募することにした。
二人ともプレゼント企画に当選し、それぞれ別の友人と二人で参加した。ちょうど今から一年前のことだ。

リコさんは、段ボール箱いっぱいにドレスを詰めて船着き場に送っていた。
なおこさんと友人は、リコさんの作ったドレスを着て、船内で開かれるダンスレッスンに参加した。「ほら、私のドレスが役に立ったでしょ!」とリコさんは嬉しそうだった。

また、カメラを持参したリコさんの提案で、なおこさんたち4人はドレスを着て、船内のあちらこちらでモデルのように写真撮影を楽しんだ。
リコさんは、撮影をスムーズに行なうために、その日のスケジュールを確認し、人が少ないタイミングを見計らった。リコさんから、「今日は〇〇で人が少なくなるから、今から写真を撮るよ」となおこさんたちに連絡が入ると、二人はリコさんの部屋に集合して、リコさんがコーディネイトしたドレス、アクセサリーなどを身に付けて、メイクもしてもらって撮影会に臨んだ。
なおこさんにとってこんな遊びは初めてだったが、胸が躍るような素晴らしい体験となった。
この体験が、のちのちシンプロのランウェイへと繋がっていった。


彼女たちみたいにアイデアをたくさん出せるようになりたい

義足になってから、できないことが多かったなおこさんは、いつの間にかあきらめグセがついてしまった。そのため、望むことすらしなくなっていた。
綺麗な衣装を着て舞台に立つということも、自分は全く興味がないのか、それとも、できないと思い込んであきらめてしまっているのかが分からなかった。

「でも、何事も体験してみないと分からないじゃないですか。だから、体験してみて、その結果、自分が何を感じるのかを知りたいんです。それもあって、今回、シンプロに応募しました。
私たちは地球に遊びに来たのであれば、やっぱり自分に色々と体験させてあげたいです。
その一方で、望むのが苦手で、望みをノートに書こうとしてもあまり出てこないので、望む練習もしていきたいですね」

剛田毛子さんとリコさんに共通しているのは、アイデアが次々に出てくるところだ。
「毛部の部長だからランウェイで毛を抜いてパーッと撒こうかな」と言う剛田毛子さんのアイデアに、なおこさんは思わず笑ってしまった。
その話をリコさんにすると、リコさんは「何か同じ匂いがする」と言った。

なぜこんなにもアイデアが尽きることなく湧き出て来るのか、なおこさんは不思議で仕方なかった。

「もちろん芸術的なセンスがあると思うんですけれど、自分に対してたくさん許可しているからかなと感じています」

すごいなぁと感心する一方で、「私は全然アイデアが出てこない」と二人と比較をして少し落ち込んだりもした。でも、そこには「彼女たちみたいにアイデアをたくさん出せるようになりたい」という望みが隠れていた。二人と出会い、共に過ごす中で、なおこさんからは新たな望みが生まれていた。これも、体験してみて初めて分かったことの一つだ。


■舞台の上から届けたいこと

なおこさんは8歳の時に交通事故に遭った。
一人で、青信号で横断歩道を渡っている時に、大型トラックにひかれた。

「昨年、叔父から初めて聞いたんですが、私が横断歩道を渡っている時に、赤信号で横断歩道の手前で停まっていた車が、大型トラックと私のことを見ていて、何とか大型トラックの運転手に気づかせようととっさにクラクションを鳴らしたそうなんです。
それを聞いて、みんながあの現場を見ていたんだなぁと思って。
実は、11歳の時にも小学校の近くを歩いていたら、通りすがりの人から『あんた、あの時の女の子やない?』と声をかけられたんです。そして、『助かってよかった』と言われたときに、死ななくてよかったと思いました」

救急車に乗っている時に、なおこさんは、ちぎれかけた脚を触りながら、「脚がない、脚がない」と言っていたら、救急隊員は、なおこさんに「大丈夫」と言った。それを聞いて、子どもながらに「大丈夫なんかじゃないよね。脚がちぎれかけているのに、この人はなんで大丈夫なんて言うんだろう」と思った。

今、考えると、自分が救急隊員でも、「大丈夫」しか言えないと思った。

でも、今、自分がここにいるということは、結局、本当に大丈夫だったんだと気づいた。
「大丈夫」は脚だけに限ったことではなく、なおこさんの人生そのもののことを指していた。
だからこそ、なおこさんは、助かったこの命に、様々な経験をたくさんさせてあげたいと感じている。

「8歳の私は、まさか40数年後に幕張の舞台に立つなんて思ってもいなかった。
幕張の舞台の上から、8歳の私に向かって、『見てるかー!私、今ここに立っているよ!』という気持ちを、そして、ここまで来られたのは、やっぱり未来の私が導いてくれているからだと思うから、未来の私に向かって『ありがとう!これからもよろしくね!』という気持ちをランウェイから届けたい」

何年か前までは、過去の自分に対して、「先は長いぞ、がんばれ」と声をかけていた。
「そんなこと、言われたくないよね」と、なおこさんは苦笑した。

そして今、なおこさんは、過去の自分に対して、「絶対に大丈夫だから、とにかくここまで来て!」と声をかけている。

Happyちゃんが16歳の時に裸足のまま家を飛び出し、未来が真っ暗で光が見えなかったにもかかわらず、死のうと思わなかったのは、未来の自分がそのときの自分にずっと感謝の光を注ぎ続けてくれていたからだという。
16歳のHappyちゃんと8歳のなおちゃんが重なった。

10月6日、すべての次元の自分を感じながら、義足で堂々と歩くなおこさんは、存在そのもののパワーで私たち観客を魅了することだろう。


インタビュー・文 ゆっこ@yuki_love_light
編集 Smile pocket@lovely_smile_pocket